インデックス投資のすゝめ

敗者のゲームからの引用。基本的には、「アクティブ運用は市場平均であるパッシブ運用には勝てない」ことを繰り返し説明している。

* チャールズ・エリス(著) 敗者のゲーム[原著第8版]

敗者のゲーム

資産運用は「敗者のゲーム」

機関投資家の運用成果を測定している会社から送られるデータは、運用機関の成績が期待外れなことを示している。実績を見る限り、ほとんどの投資信託、年金や財団など機関投資家も市場には勝っていない。市場平均を上回るような成果は時折見られるが、長続きはしていない。「市場平均を上回る」という目標に反して、アメリカのプロの運用期間は全体として市場平均に負けている。

機関投資家の大多数が市場平均より高い成果をあげられる、と言う前提は正しくない。なぜなら機関投資家そのものが市場なのだから、機関投資家全体としては、自分自身に打ち勝つことはできないのだ。機関投資家は、取引所取引の95%を占める。取引所外やデリバティブではその比率はさらに高い。運用機関の数が膨大で、能力も高く、顧客のために質の高いサービスを提供するからこそ、資産運用が敗者のゲームとなった。

資産運用は、根本的に「敗者のゲーム」となってきている。すなわち、相手の95%が機関投資家である限り、勝つためのゲームをするのではなく、「負けを減らした方が勝者」となるゲームである。

私たち個人投資家の売買相手とは、圧倒的な情報・知識・経験を備えた大機関投資家だということを忘れてはならない。

短期的にはマーケットに「勝つ」ことのできる投資信託はあっても、長期にわたって市場平均以上の成績を出せる投資信託は極めて限られている。そして、これまでにそうしたファンドを事前に見分ける方法を見出した者はいない。

難しいことが重要なこと?

資産運用において、難しいことが重要なことではない。医学において、手を洗うことは、ペニシリンに次いで命を救う方法だった。幸いなことに資産運用において最も付加価値の高い仕事は、最も容易なこと - 投資の基本アドバイスだ。

投資とはそもそもネガティブサム・ゲーム

売り手と買い手の損益を合計すれば、手数料分やマーケットインパクトなどを考慮すれば、全体としてはマイナスとなるマイナスサムゲームである。そして、このコスト部分は市場全体では毎年年数千億ドルにも達する。つまるところ、アクティブ運用とは全体としては大幅にマイナスとなるゲームである。

理論的に可能であることと実践は異なる

「適切な時に、適切な場所にいて、適切なものをつかむ」といった投資アプローチは、確かに大きな可能性に満ちていて魅力的に見える。運用期間には常に挑戦の気持ちを起こさせる。プロは絶えず、市場の変化に合わせて新しい(多くはまだ知られていない)運用方法を発見しようと努力している。そして、新しい方法が有効とわかれば、それまでの方法に取って代わる。

もちろん、こうしたことは理論上は可能である。しかし、実際にうまくいくだろうか?

どの運用期間が、どれほど長い間うまく運用できるというのか?実績を見る限り、結果ははかばかしくない。特に個人投資家の場合、事前に市場に勝てるファンドを見つけることは明らかに不可能だ。

明らかに言えることは、超長期にわたって通用する投資哲学など、ほとんど発見されなかったということだ。おそらくその原因は、自由な資本主義市場においては、比較優位を確立する機会を得たとしてもそれを長期間にわたって持続させるのはほぼ不可能ということだろう。優れたアイデアという商品の市場は最も効率的なのだ。噂はあっという間に広がってしまう。

長期的に成功するには、「ミスを減らすこと」

長期的に成功するただ一つの方法は「ミスを減らすこと」だ。これは、ゴルフやテニスの例を見れば分かる。一生懸命やればそれだけリターンが増えるというわけではないし、リターンを増やそうとしてより高いリスクを取れば危険性もそれだけ高まる。

これと反対の意味で投資家が犯すミスは、慎重になりすぎることである。短期の下げに慌てて長期的な運用目的を忘れてしまうことだ。

仮にあなたが個人としては平均以上の投資家だとしても、市場平均以下の投資をしている可能性が高い。市場は機関投資家が支配しているからだ。統計を見れば明らかだろう。

第一に認識すべきは、投資における成功は投資家自身の知識や能力そのものではなく、一つ一つの取引をどれだけの知識と能力を持って処理できるかにかかっているということだ。

第二に、ニューヨーク株式市場における取引の75%はトップ100社の機関投資家によって行われている。現実問題として、個人投資家の取引のほとんどは大機関投資家には及ばない。このトップ100社に勝つのは至難の業だ。とすれば、最も有能な個人投資家でも、実績は最下位に近いだろう。

ミスター・マーケットとミスター・バリュー

ベンジャミン・グレアムの古典的名著『懸命なる投資家』によれば、ミスター・マーケットは精神的に不安定で、感情的な行動を取りがちだ。彼は何とかして自分のその時の気分に私たちを引きずり込み、売買をさせようとする。なるべく多くの取引をさせるために、頻繁に、時には激しく価格を変える。

対して、ミスターバリューは表情一つ変えない。彼の暮らす世界には感情や幻想の介入する余地はない。彼は夜も寝ずに財やサービスを生産し、分配し続ける。楽しい仕事ではないが、経済そのものを動かしている。

長期的には、ミスター・バリューはミスター・マーケットに必ず勝つ。ミスター・マーケットのどんな悪戯もそう長くは続かない。ミスター・マーケットが楽観的な時も悲観的な時も実体経済においては財やサービスは普段通り生産され流通する。

長期投資で成功するには、ミスター・マーケットに惑わされずに、しっかりと自分の投資政策を堅持しなければならない。

Benjamin Graham

投資はエンターテインメントか

投資は娯楽ではない。責任である。投資は本来「エキサイティング」なものではない。むしろ原油の精製やICの製造過程のようにじっくり腰を据えて取り組むべき作業だ。

投資で成功する上での最大の課題は、頭を使うことではなく、感情をコントロールすることである。常に最大の目的を忘れず、落ち着いて、忍耐強く守備一貫して行動することが必要だ。だから、「己自身を知れ」ということが、投資における鉄則となる。

リターンかリスクか

ほとんどの投資家、運用期間、そして運用の広告は、リターンという投資の一面しか見ていない。長期的な運用の成功のためには、リスクの方がより重要だ。特に、取り返しのつかない大損害を被るリスク。

人間は決して合理的な動物ではない。そして、しばしば大きく判断を間違える。投資とて例外ではない。人間は得てして無意識に行動してしまう。だからこそ、日常のチェックリストを用意する必要がある。

長期投資に成功するには

長期投資に成功するためにやるべきことは限られている。

① ミスター・マーケットの仲間達を無視すること

まず第一は、ミスター・マーケットの仲間達、証券会社や投資信託から送られてくる膨大な宣伝広告、ファンドの運用成績、市場見通しの類を一切無視することだ。

② 長期的に最も可能性の高い運用基本方針を策定すること

第二に、長期的に最も可能性の高い運用基本方針を策定することだ。成功するかどうかは、他人との比較で決まるのではない。自分自身との戦いだ。ミスター・マーケットの妨害に屈しないで、自らの任務を遂行することができるかどうかである。